紫外線による健康影響には、日焼けなど急性のものと、長年にわたる蓄積により皮膚がんなどの病気になるリスクを高めるといった慢性のものがあります。紫外線には、体内でビタミンDを作るなど良い面もありますが、一方でこうした悪影響をもたらすことをふまえて、子供のときから正しい対策をとることが重要です。今回は紫外線とその健康影響に関して整理してみたいと思います。
太陽光には図のように可視光線のほかに目に見えない赤外線や紫外線が含まれています。そのうち紫外線は地表に届く光の中で最も波長が短いものです。紫外線は波長によりさらに細かく分類されます。
◎UV-A…大気圏で殆ど吸収されずに到達します。UV-Bほど有害ではありませんが、長時間浴びた場合の健康影響が懸念されています。日焼けサロンで使用されているのはこの紫外線です。
◎UV-B…大部分は大気層(オゾンなど)で吸収されますが、一部は地表へ到達し、皮膚や眼に影響を与え、日焼けや皮膚がん、眼の障害の原因となります。
◎UV-C…さらに短波長のもので、大気層で完全に吸収され、地表には到達しません。最も生物に対して破壊力があり、殺菌灯の紫外線に使われています。
< 紫外線の特徴 >
① 薄い雲ではUV‐Bの80%以上が透過する。
② 地表面の種類で紫外線の反射率は大きく異なる。
③ 建物の中でも屋外の10%以下の紫外線が存在する。
④ 10時から14時までに一日量の60%以上が放射される。
⑤ 一年のうちでは春先から急激に増加し7月頃がピークになる。
(例:4月から9月に一年間の総量の約75%が放射される)
⑥ 標高が1000m上昇するとUV‐Bは10~12%増加する。
⑦ 緯度が低くなると紫外線量は増加する。(例:沖縄は北海道の2倍)
【紫外線の反射率】
雪 | 80% |
砂浜 | 10~25% |
コンクリート・アスファルト | 10% |
水面 | 10~20% |
土・草地・芝生 | 10%以下 |
◆皮膚への影響:
①急性影響; 日差しを浴びて数時間後に皮膚が赤くなることをサンバーン(sunburn)と言い、これは皮膚の血流量増加が原因の赤い日焼けで、数日で消えます。これに対して数日後にメラニン色素が増えることで皮膚が黒い日焼けになることをサンタン(suntan)と言い、こちらは数週間から数ヶ月続きます。
皮膚は個人差が大きく、容易にサンバーンを起こしてサンタンを生じないタイプⅠ(白人に多い)から決してサンバーンを生じないタイプⅥ(黒人が該当)まで6段階にスキンタイプが分けられ、日本人はこのうちタイプⅡからタイプⅣに入ります。数字が少ないタイプの人ほど紫外線対策を強化する必要があります。残念ながらこの体質は変えることはできません。肌の弱い方が日焼けサロンに通っても赤くなって痛いだけで、褐色の肌に代わることはありません。このほか、体質により光線過敏症が出現することもあります。
【紫外線が関係していると考えられる病気】
急性 | ①日焼け(サンバーン) ②雪目 ③免疫機能低下 |
慢性 | 【皮膚】 ①シワ(菱形皮膚) ②シミ、老人班 ③良性腫瘍 ④前がん症(日光角化症+悪性黒子) ⑤皮膚がん |
②慢性影響; 日焼けは紫外線による皮膚の損傷です。これが過度に進むと皮膚のコラーゲン線維が損傷するためにシミやシワ、さらに皮膚細胞のDNAが障害されるために良性・悪性の腫瘍(がん)が発生する下地を作ります。この作用は光老化(フォトエイジング)と呼ばれるほどです。既に細胞に損傷を受けてしまった傷跡・火傷瘢などでは、過度の紫外線はさらに危険が増します。
紫外線は体内でのビタミンD合成に役立つと言われてきましたが、現在では十分に栄養がとれていて、一日数分間でも通勤や通学など屋外で日光を浴びていれば十分であることがわかっています。
【スキンタイプ(6段階)】
I | 常に赤くなり、決して皮膚色が濃くならない |
II | 常に赤くなり、その後少し皮膚色が濃くなる |
III | 時々赤くなり、必ず皮膚色が濃くなる |
IV | 決して赤くならず、必ず皮膚色が濃くなる |
V | 皮膚色がとても濃い |
VI | 黒人 |
◆眼への影響:
①紫外線角膜炎; 強い紫外線を眼に浴びると急性の角膜炎症を起こします。スキー場など紫外線の反射の強い場所で起きる「雪目」は良く知られています。48時間以内に治ります。
翼状片
②翼状片; 眼球結膜(白目)が翼状に角膜(黒目)に侵入する線維性の増殖組織で、瞳孔近くまで進展すると視力障害をきたします。通常は30歳代以降に発症し、進行は早くありません。農業、漁業従事者など戸外での活動時間が長い人に多発し、紫外線ばく露を含めた外的刺激がその発症に関係すると考えられています。治療は外科的な切除を行いますが、2~7%の人は再発し、再手術が必要になります。
③白内障; レンズの役割を担う水晶体が濁って網膜まで光が届かなくなり、見え方の質が低下します。初期には水晶体が硬くなるため老眼が進行し、濁りが強くなると視力が低下し、進行すると失明に至ります。加齢・性別(女性>男性)・喫煙・紫外線(UV-B)・糖尿病・強度近視・ステロイドなどの薬物などが発症を促す因子とされ、抜本的な治療はレンズ交換手術です。
◆子供への影響:
子供時代は細胞分裂も激しく成長が盛んな時期であり、大人よりも環境に対して敏感です。また、生涯に浴びる紫外線量の大半は18歳までとも言われ、とくに18歳未満の日焼けは、後年の皮膚がんや眼のダメージ(とくに白内障)発症のリスクを高めます。昔から言われてきた「夏に日焼けすると冬に風邪をひかない」というのは、良く身体を動かして食欲を高め、夜ぐっすり休めば健康になるという意味であり、単に日焼けで皮膚を黒くすればそれで良いという意味ではありません。現在は、子供に紫外線を浴びさせ過ぎない配慮から、母子健康手帳の記載も「日光浴をさせていますか」から「外気浴をさせていますか」という表現に変わっています。
◆職業上の紫外線障害:
職場での紫外線ばく露に対しては、様々な防止対策が講じられています。溶接作業場所などは、紫外線発生源の周囲を遮光カーテンまたは遮光板で囲います。保護具としては、遮光眼鏡、遮光面、溶接用保護面、遮光板、日焼け止めクリームなどがあります。健康管理面では紫外線にさらされる業務に携わる人を対象に、行政指導(昭和31年5月18日付け基発第308号)に基づき、定期的に健康診断を行うこととされています。なお、君津健康センターは上記の措置や健康診断には完全に対応できます。
◆紫外線の強さと量:
紫外線の強さは、時刻、季節、天候、オゾン量によって大きく変わります。同じ気象条件の場合、太陽が頭上にくるほど強い紫外線が届きます。一日のうちでは正午ごろ、日本の季節では6月から8月に最も強くなります。標高が高いと空気が薄くなり、より強い紫外線が届きます。地面が雪や砂では紫外線を強く反射するので、スキーや海水浴のときには強い日焼けをしやすくなります。
また、紫外線の強さに時間をかけたものが紫外線量です。弱い紫外線でも長い時間浴びた場合の紫外線量は、強い紫外線を短時間浴びた場合と同じになることもあるので注意が必要です。
◆UVインデックスとは:
紫外線の人体に与える影響は波長によって異なります。このため国際的にはUVインデックス※という指標が広く用いられています。これは、紫外線の波長ごとに異なる人体への影響度合いを総合的に評価した指標といえます。気象庁はこの指標を用いて紫外線情報を提供しています。
【UVインデックスとそれに応じた紫外線対策】
1~2 | 弱 い | 安心して戸外で過ごせます。 |
3~5 | 中程度 | 日中は出来るだけ日陰を利用しましょう。出来るだけ、長袖シャツ、日焼け止めクリーム、帽子を利用しましょう。 |
6~7 | 強 い | |
8~10 | 非常に強い | 日中の外出は出来るだけ控えましょう。 必ず、長袖シャツ、日焼け止めクリーム、帽子を利用しましょう。 |
11以上 | 極端に強い |
( 環境省「紫外線保健指導マニュアルによる」 )
※UVインデックス=CIE紅斑紫外線強度(mW/m2)/25
*CIE紅斑紫外線強度とは、国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage)が波長ごとの人の皮膚に対する影響を考慮し、重み付けをして足し合わせたものです。
①紫外線をできるだけ浴びない; 紫外線の強い正午前後の外出はできるだけ避けましょう。曇りの日も同様です。ハイキングなど標高の高い場所や緯度が低いリゾート地などに出かける際はより注意が必要です。日陰でも散乱・反射した紫外線を浴びますので油断は禁物です。
②日傘を使う、帽子をかぶる、衣服で覆う; とにかく紫外線をさえぎり身体を覆うのが一番効果的です。つばの広い帽子はお勧めです。衣類は厚手で色が濃いほど紫外線の防護に役立ちます。
③紫外線カット機能を持つサングラスをかける;
サングラスや紫外線カット眼鏡を適切に使用すると、眼へのばく露を90%カットすることが出来ます。一般にガラスの眼鏡はUV‐Bをカットしますが、プラスチックの場合は“UVカット”表示のあるものを選びましょう。横からのばく露もあるので顔の形に合ったものを選び、アウトドアではレンズの大きめのものが安心です。
④日焼け止めを上手に使う; 顔など衣類などで覆うことのできないところは、日焼け止めを使うのが効果的です。日焼け止めの紫外線防止剤には、紫外線散乱剤(無機系素材)と紫外線吸収剤(有機系素材)の2つがあり、紫外線吸収剤は白くなりにくく、紫外線散乱剤はアレルギーをおこすことがほとんどありません。なお、散乱剤に良く使われる「酸化チタン」は車の白色の塗装にも使われています。
< 日焼け止めの効果を示す指標>
◎SPF(Sun Protection Factor):UV-Bを防ぐ指数(2~50⁺)です。日焼け止めを塗った場合、塗らない場合に比べて何倍の紫外線量をあてると翌日かすかに赤くなるかを表示しています。
◎PA(Protection grade of UV-A):太陽光をUV-A 照射光源に変え、照射後2〜4時間にみられる皮膚の黒化を指標として、塗布部と無塗布部との比を計算した値により4段階(PA+~PA++++)に分けて表示しています。
⑤バランスの良い食事をして体調を維持する; 紫外線対策以前に身体そのものが健康でなければなりません。片寄った食事や食べ過ぎ・飲み過ぎ、喫煙などはよくありません。日焼けは細胞のダメージですので酸化防止作用のあるビタミンCやビタミンEを意識して摂取したり、そうした成分が含まれる化粧品を使うのは効果があると考えられます。
参考ホームページ:気象庁、国立環境研究所、環境省、日本皮膚科学会、資生堂
「健康さんぽ67号」
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