血液には様々な成分が含まれています。脂質(油成分)としては、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類があります。脂質異常症とは、血液中の脂質、具体的にはコレステロールや中性脂肪(代表的なものはトリグリセライド)が、多過ぎる病気のことです。
血液中の脂肪が異常に増えても、自覚症状はまったくありません。自分では全然気づかないし、「脂質異常症です。」と言われても、それが何を意味するのかピンとこないため、そのまま放置してしまうことがほとんどです。
しかしそれを放置したままでは、増えた脂質がどんどん血管の内側にたまって動脈硬化になってしまいます。ところが、動脈硬化になってもまだ自覚症状がありません。最終的に心筋梗塞や脳梗塞の発作を起こして、やっと脂質異常症の怖さに気づくのです。
血液中にある4種類の脂質のうち、多過ぎると問題なのはコレステロールと中性脂肪です。脂質異常症には、
① LDLコレステロールが多いタイプ(高LDLコレステロール血症)
② HDLコレステロールが低いタイプ(低HDLコレステロール血症)
③ トリグリセライド(中性脂肪)が多いタイプ(高トリグリセライド血症)
の3タイプがあります。
血液中のLDL(悪玉)コレステロールが多過ぎると動脈硬化を起こします。中性脂肪は、それ自体は動脈硬化の原因にはなりませんが、中性脂肪が多いと、HDL(善玉)コレステロールが減ってLDLコレステロールが増えやすくなり、間接的に動脈硬化の原因となります。また、中性脂肪の多い人は、あとで話す「メタボリックシンドローム」と呼ばれる危険因子をいくつも持っていることが多いです。どのタイプかによって治療も違ってくるので、医師は患者さんがどのタイプかをきちんと診断して、指導や治療を行います。
中性脂肪やコレステロールが高い脂質異常症の人は、適正値の境界の人、つまり潜在患者も入れると、なんと2,200万人もいます。(平成12年厚生労働省循環器疾患基礎調査)
さらに、国民健康・栄養調査から見ると、診断基準のひとつであるトリグリセライドだけみても、基準値を上回る人は、男性では30代から50代にかけて増えて50代ではおよそ2人に1人が、女性では50代から増え始め60代でおよそ3人に1人となっています。しかも、自分が脂質異常症であることを自覚していない人が多く、自覚している人はわずか30%に過ぎないと言われています。(平成18年国民健康・栄養調査)
また、高血圧や糖尿病に比べると、脂質異常症は軽視される傾向があり、右表でもわかるように、その怖さが認識されていません。「わからない」という回答も一番多く、高血圧や糖尿病に比べると病気の本質が知られていないことが問題です。
ここで脂質異常症になりやすい人の条件をあげてみます。それぞれ自分はどうか、チェックしてみましょう。心当たりがある項目が多いほど、危険が高くなります。
○●○●○ あなたは脂質異常症になりやすいか、チェックリスト ○●○●○
日本人の死因の第2位と3位を占めているのは、狭心症や心筋梗塞などを含めた心臓病と、脳出血や脳梗塞などの脳卒中です。これらはどちらも、動脈硬化が原因となって起こる血管の病気です。死因の第1位はがんですが、心臓病と脳卒中を合わせると総死亡の約30%を占めるので、動脈硬化を防ぐことはとても重要です。さらに動脈硬化は、高血圧を悪化させたり、腎臓病などの原因にもなります。
動脈硬化はさまざまな危険因子が重なり合って起こります。だから、それらの危険因子を除いていけば、ある程度防げるのです。高血圧が動脈硬化の大きな危険因子の1つだということはよく知られていますが、脂質異常症も重大な危険因子です。ですから、自覚症状はまったくなくても、早く見つけて治療することが重要です。
虚血性心疾患や脳卒中に関して、とくに危険な因子とされるのが、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常(糖尿病とその境界型)です。危険因子は、重なるほど危険が高くなるのは当然ですが、これらが3つ以上異常と診断された人の場合、虚血性心疾患や脳卒中になる可能性が、いずれも正常な人の約36倍以上になるといわれています。現在ではこのような状態を「メタボリックシンドローム」と呼んでいます。これらの項目に心当たりがある人は、1つずつでも減らしていく努力が大切です。
脂質異常症の予防のために、食事とならんで重要なのが運動です。なぜなら、次の3つの点に大きな理由があります。
①過剰のエネルギーを消費し、脂肪が皮下や内臓に蓄積されるのを防ぐ。
②血行を促して血管の弾力を改善したり血管をひろげるなどして、血圧を下げ、動脈硬化を防ぐ。
③体内の脂肪の代謝が改善するように調節する酵素の一つであるリパーゼを活性化させ、LDL(悪玉)コレステロールを減らしてHDL(善玉)コレステロールを増やす。
運動は、エネルギーを上手に消費するためと、全身の血行をよくするために行うので、わざわスポーツジムに通ってハードな運動をする必要はありません。酸素をたくさん消費しながら行ういわゆる有酸素運動が効果的です。「気軽に出来て続けられる運動」を選びましょう。誰にでも勧められるのはウォーキングです。家事もしっかり行えば立派な運動になります。また、スクワットなどの筋力トレーニングも無理のない範囲でとり入れると、代謝が改善します。はじめは1日おきでも、週に2、3日でもかまいません。運動時間が短くてはダメなど考えずに、からだを動かすことを楽しみながら、少しずつ習慣にしていけば良好です。また、健康のための運動ですから、無理をして体調をくずしたら逆効果です。とくに次の3つに注意し、体調に合わせて柔軟にやったり中止したりしましょう。
運動を行うときの3大注意点
①体調や天気などの状況を総合的に考え、条件が悪いときには休む。
②軽い柔軟体操やストレッチによるウォーミングアップとクーリングダウンを忘れずに。
③水分補給はこまめに、十分に!お茶やスポーツドリンク入りボトルなどを携帯しよう。
( 運動をしないときはスポーツドリンクを飲みすぎることによる糖分の取りすぎに注意しましょう! )
脂質異常症は初期には自覚症状がまったくありません。ほかの生活習慣病同様に、早く見つつけて早く対処することが非常に重要です。そのためには、無症状のうちから定期的な健康診断で調べてもらうことしか方法はありません。1年に1回はかならず健康診断(人間ドックを含む)を受ける習慣をつけましょう。脂質異常症の検査は、普通に行われる健康診断では必ず行います。とくに、脂質異常症になりやすい人のチェックリストで該当する項目が多かった人は、忘れずに健診を受けましょう。
検査項目とその診断基準は、以下のとおりです。いずれか1つでも該当すれば脂質異常症と診断されます。
【 脂質異常症の診断基準(空腹時採血)】
高LDLコレステロール血症 | 140 ㎎/㎗ 以上 |
境界域高LDLコレステロール血症 注1 | 120~139mg/㎗ |
低HDLコレステロール血症 | 40 ㎎/㎗ 未満 |
高トリグリセライド血症 | 150 ㎎/㎗ 以上 |
注1 スクリーニングで境界域高LDLコレステロール血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』より
ちょっと寄り道:
『たばこが脂質異常症に悪いわけ』
たばこに含まれるニコチンは、交感神経を刺激させる作用があります。すると、心臓は血圧を上げ、心拍数を高めるなど活動を活発にして、心臓に負担をかけます。また、中性脂肪の原料となる血液中の遊離脂肪酸を増やす作用もあります。
さらに、たばこを吸うと血液中のコレステロールが酸化されて動脈硬化が進行することや、善玉のコレステロールであるHDLコレステロールの濃度が低くなることも知られています。
これらはいずれも動脈硬化を促進し、心臓病や脳卒中の原因となります。1日も早く禁煙することをお勧めします。
心臓の冠動脈の病気などの明らかな動脈硬化の病気がない場合には、脂質異常症の治療は生活習慣の改善と薬物療法が基本です。
生活習慣の改善は、血中脂質を下げるだけでなく動脈硬化が進むのを防ぐのが目的ですから、動脈硬化を促進するほかの要素、高血圧、耐糖能異常、肥満なども改善する必要があります。とくに重要なのが食事療法で、これは適正体重の維持とも深く関わってきます。
…… 薬を飲み始める条件 ……
どうしても生活習慣が改善できない人や、生活習慣を改善しても血中脂質の数字が高いまま下がらないときには、動脈硬化、さらに心筋梗塞や脳梗塞へと進む危険性が高くなるため、薬物療法を行うことになります。一般の脂質異常症では、食事療法を3~6カ月ぐらい続けてもコレステロール値や中性脂肪値が下がらない場合に薬物療法に入ります。また、家族性高コレステロール血症の場合には薬物療法から始めます。薬物療法を始めるかどうかの判断は、症状や今までの治療の実践程度によって医師が行います。薬がイヤだと思っても、医師から「薬を始めましょう」といわれたら素直に飲み始めましょう。
…… 生活習慣の改善は続ける ……
薬を飲み始めるとそれに頼ってしまう人がいますが、それではいけません。生活習慣の改善や食事療法、運動療法等を行うことの効果は、コレステロールの合成や処理のシステムを調節し、正しい状態に戻そうというものです。薬を飲んでいるからと安心せずに、根気よく自己管理を続け、長い時間をかけてじっくりつき合う覚悟が大事なのです。
参考:厚労省ホームページ
「健康さんぽ64号」
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