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耳のはなし

医師 桝元 武

耳は音を聞き取る感覚器であると同時に、重力の方向と加速度を感知する感覚器でもあります。耳は聴覚以外にも平衡感覚と回転感覚をも感じとるので、医学用語としては「平衡聴覚器」という用語が使われます。

耳の構造

人の耳は、外耳・中耳・内耳の3部分に区別されます。

◆外耳(耳介、外耳道)
① 耳介
先ず人の耳介は、体外の音波を集める集音器の機能を持っています。現在でも水兵が着ているセーラー服の特徴である大きな襟の理由について、甲板上で風などの影響で音声が聞き取りにくいときに襟を立て集音効果を得る、すなわち耳介を大きくする、という説があります。

耳介軟骨(弾性軟骨)に耳介筋と呼ばれる筋肉がついていて、その全体を皮膚が覆っています。普通の人ではこの耳介筋が退化しているため、耳介を動かす事は難しいですが、中には左右の耳介を別々に動かせる人もいます。私事ですが、私もその一人です。もっとも、人を含む霊長類では首を回す自由度が高いため、耳介を動かす必要性そのものがありません。

耳介の形は非常に複雑で、同じ音でも上方から来た音と下方から来た音では周波数成分が変わって耳に入ってくるため、経験則で音源の垂直方向を判断できます。また、両耳の強弱と音の到達の時間差から水平方向の判断ができます。後ろななめ上から自分の名前を呼ばれてそちらにさっと顔を向けるのは、実は凄いことなのです。

② 外耳道
耳の外部に開かれた孔(外耳孔)と鼓膜の間にある約25㎜の管状部分は外耳道と呼ばれます。外側から1/3は軟骨で、その奥の2/3は骨が周りを囲い、皮膚が覆っています。形状はゆるやかなS字型です。ちなみに、ここに炎症(できもの)ができると、その圧力の逃げ場がないので非常に強い痛みになります。これが外耳道炎です。

また、皮膚部分からの分泌物が耳垢となります。耳垢とりですが、鼓膜の表面から耳の入り口に向かって常に耳垢を押し出そうとする力が働いていて、耳垢は自然に耳からこぼれ落ちます。そのため絶対に必要なものではありません。

◆中耳(鼓膜、鼓室、耳管)
①鼓膜
鼓膜は外耳と中耳の間にある薄い膜で、寸法は直径約10㎜、厚さ約0.1㎜です。外耳道が比較的まっすぐな人では耳介を少し引っ張れば外から見ることもできます。鼓膜には神経が分布し、痛覚にきわめて敏感です。

②鼓室
鼓室は鼓膜の内側にあり、耳管で咽頭と繋がっています。鼓膜には耳小骨という米粒ほどの大きさである3つの骨があり、槌(ツチ)骨・砧(キヌタ)骨・鐙(アブミ)骨という名称です。この3つの骨は関節で繋がり、耳小骨筋という筋肉がついていて過大な音によって耳小骨が過剰に動かないよう収縮し、耳へのダメージを軽減する仕組みになっています。外部から入ってくる音は鼓膜とアブミ骨底の面積比で約17倍に、耳小骨のてこ運動によりさらに約1.3倍増幅され、トータルで20倍から30倍にもなります。中耳炎で聴力が低下するのは、この増幅機能が十分働かないのも原因のひとつです。

③耳管
耳管(エウスタキオ管)は通常は圧迫されて閉じていますが、何かを飲み込むなどの動きに連動して一時的に開きます。この動きによって外気圧と中耳の気圧差を解消します。スキューバダイビングをされる方はだれでもこの「耳抜き」を知っています。咽頭に通じているこの耳管が何らかの原因(のどの炎症も含まれます)で閉塞すると鼓膜が陥没して振動しにくくなり、聞こえが悪くなります。

◆内耳(前庭、蝸牛、三半規管)

①前庭
前庭は三半規管と蝸牛に挟まれていて側面の前庭窓で中耳の鼓膜部分と接しています。その中にはセンサーである細胞があります。その上には平衡砂(耳石)という炭酸カルシウムの結晶を乗せた平衡砂漠と呼ばれるゼリー状物質が細胞を覆っており、身体の動きや傾きなどによって平衡砂漠が動き、それを有毛細胞が感知します。

②蝸牛
蝸牛はカタツムリの殻に似た、細長い円錐が2巻き半巻いた形をしています。内部はリンパ液が満ちており3つのゾーンに仕切られています。音が伝わると内部に振動が生じ、周波数に応じて異なる部位で振動が最大限になり、それを高い音あるいは低い音として感知します。人の耳は20ヘルツから2万ヘルツまでの音を聞き取れるとされています。

③三半規管
三半規管は、それぞれが直交に配置された半円弧状の前半規管・後半規管・外側半規管の3つの管で構成されています。膨大部の中にはセンサーである細胞があり、ここで頭部の回転運動の方向と加速度を感じ取ります。

難聴について

大きく分けて難聴は音を感じる内耳まで音のエネルギーが上手く届かないために起きる“伝音性難聴”と、内耳など音を感知する部分の障害によって起きる“感音性難聴”があります。

大きな騒音に長い年月ばく露されると内耳が障害され、感音性難聴である騒音性難聴を来たします。4000ヘルツ前後の聴力低下が見られるのが特徴です。その明確な理由ははっきりわかっていません。この音域は日常生活でほとんど必要とされないので自覚症状に乏しく、気づかないうちに進行する危険があります。騒音職場で働かれている方はきちんと耳栓などを使用し、定期的な健康診断を受けることが必要です。

*いくつかの耳の病気を挙げてみましょう

急性中耳炎
菌が耳管を通って、鼓膜の奥の中耳で炎症を起こし、膿がたまる状態です。大人でもありますが、特に小さいお子さんによく見られます。
慢性中耳炎
大きく分けると、鼓膜に穴があいて耳だれを繰り返す慢性化膿性中耳炎と、骨が溶けていく真珠腫という病気があります。
外耳炎
外耳道(耳の穴の入口から鼓膜まで)の皮膚の炎症です。多くの場合は、耳を強くかいたり、耳掃除をしたり、泳いだりした後に、傷ついた皮膚から菌が入って、腫れてきたり、赤くなったりします。
耳鳴り
耳鳴りは、実際には音がしていないのに、何かが聞こえる状態を言います。原因はあまりわかっていません。耳鳴りの多くは、自分自身にしか聞こえない「自覚的耳鳴」であることが多く、ストレスや睡眠不足などで更に大きくなることもあります。耳鳴りがうるさく、眠れない、家事や仕事が手につかない、など日常生活にも困っている方もいます。
めまい
「めまい」という言葉の意味は、実際は動いて無いのに「自分が周囲に対して動く感じ」、または「周囲が自分に対して動く感じ」を持つことを言います。
原因になる病気は20種類以上あり、大きく分けると耳が原因のものと、脳が原因のものに分けられます。耳が原因のものでは、三半規管というバランスを感じるところが調子をくずして起こることが多く、疲れやストレス、睡眠不足が引き金になることもしばしばあります。
メニエール病
めまいを繰り返す病気です。耳の奥の内耳に、リンパ液がたまりすぎて起こる病気で、めまいの他に耳鳴りや難聴、耳のつまった感じを一緒に起こすこともあります。
良性発作性頭位めまい症
めまいを起こす病気の中で最もよくある病気で、内耳にある加速度を感じ取る耳石という器官の病気です。何らかの原因で耳石がかけて、隣にある三半規管の中に入り、頭を動かすことで、その耳石のかけらが三半規管の中を動いてめまいを引き起こします。
突発性難聴
内耳という音を感じ取る部分の調子が悪くなって起こる、原因不明の病気です。文字通り、突発的に聞こえが悪くなります。全く聞こえなくなる方もいれば、めまいや耳鳴り、耳のつまる感じ、音の響くような感じがする方もいます。

以上が参考になりましたら幸です。

「健康さんぽ62号」

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