女性の平均寿命86.99歳、男性の平均寿命80.75歳。厚生労働省が発表した2015年分の「完全生命表」によれば、日本人の平均寿命は過去最高を更新しました。2016年9月15日(老人の日)の時点で100歳以上の日本人は6万5692人、驚くべき数ですね。
日本は、世界で最も寿命が長い国の一つです。特筆すべきは、ただ寿命が長いだけでなく、様々な分野で活躍する高齢者が多いことでしょう。80歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎さんをはじめ、スポーツの分野で活躍している方も数多くいます。平日昼間にスポーツジムに行けば、ランニング、エアロバイク、筋肉トレーニングに水泳、エアロビクスと運動に勤しむ人生の先輩方にお会いすることができます。
「長生きをしたい」というのは遠い昔から全ての人が持つ願望の一つです。しかし、世界屈指の長寿国に住む私たちは「長く生きる」だけではなく、「長く太く生きる」ことを望むようになりました。活発に活動し、社会との深いつながりの中で自分の役割や生きる意味を実感しながら充実した日々を過ごす。WHO憲章ではこのような状態を「健康」と定義しています。
では、何歳になっても「健康」に生きるためにはどうすればいいのでしょうか。
そもそも、年齢を重ねると健康ではなくなるのでしょうか?いいえ、そんなことはありません。生理学的に、ヒトは誰しも年をとり、加齢に伴って身体機能が低下します。しかし、身体機能の低下が直接的に不健康につながるわけではないのです。身体機能の低下を皮切りに身体活動が減り、体力が落ちることで活動する意欲や自信を失ってさらに身体活動が減り・・・と不健康のスパイラルに陥ってしまうことで健康を損なっていくのです。このスパイラルを見れば、健康の維持に必要なことはおのずと見えてくるでしょう。しっかりと動き、しっかりと食べ、しっかり休んで体力を維持すること。これらの「運動」「栄養」「休養」は健康の三要素とも呼ばれており、どれが欠けても健康を維持できません。
中でも運動は、積極的に取り組まなければなかなか生活の一部とならない要素と言えます。
では体力とはなんでしょうか。体力は「人間の生存と活動の基盤をなす身体的および精神的能力」と定義され、図のように構造化できます。いずれも重要な機能ですが、中でも活動の主体となるのは身体的行動体力、とりわけ「筋力」「敏捷性」「平衡性」「持久性」「柔軟性」と言えるでしょう。
立ち上がりや歩行などの基本動作から生活・仕事まであらゆる活動能力に影響します。
筋力は40代中盤を境に男女ともゆるやかに減少します。近年話題になっているサルコペニア(加齢性筋減弱症)は加齢による筋力の低下によって起こり、転倒や骨折、寝たきり、認知症と様々な疾患のリスクとなり得ます。
反応速度とも言い換えられ、転倒したときの受け身、運転時の急ブレーキなど重要な能力です。20代以降、徐々に反応速度は遅くなります。
バランス保持の能力です。三半規管(身体の傾きを感じる器官)と体性感覚(筋、腱、皮膚)などからの情報を統合して姿勢の維持や運動の調整を行っています。20代中盤を境に著しく低下していくのが特徴です。
ある強度の運動をどれくらい維持できるかという能力です。最大酸素摂取量という有酸素運動の指標で測ることができ、一般的に「体力」と言われる概念に近いでしょう。男女差がありますが、40~50代から低下します。
前屈など関節の可動性です。10代にピークを迎えますが、その後の加齢による影響はあまり見られません。
以上の様々な身体機能を統合した「体力」が加齢によってどのように変化するのかを図1に示しましょう。
図1
運動習慣(30分以上のウォーキング程度の運動を週に2~3日程度、2年以上継続)がある人とない人では、ある人の方が各年代において体力が維持されていることがわかります。このように、大局的には加齢によって体力が減衰することを避けられませんが、意識的に運動を継続することで体力の衰退を遅らせることが可能です。具体的には、運動習慣のある40代の人の体力は、運動習慣のない20代の人の体力になんら劣らないのです。そして幸いなことに、運動による体力の向上はどの年代でも得ることができます。90歳から筋肉トレーニングを始めても脂肪の減少と筋力の著しい増大が得られた、というアメリカの研究結果があるそうです。
今日からです。運動による体力の向上はどの年代でも期待できますが、運動習慣を得るのは難しい場合があります。身体機能が低下してしまい、体力的にも精神的にも衰えてしまってから運動を始めるにはより強い意志の力が必要となります。
2010年から2011年にかけて実施された『70歳雇用にむけた従業員向けエイジ・マネジメント施策に関する調査研究』では、40歳以上の対象者に対して「過去(20歳の頃)に運動していましたか」という質問を行い、現在の運動習慣との関連を検討したところ、20代の頃に「ほとんど運動していなかった」者のうち現在「運動習慣がある」のは14.3%であったのに対し、「30分以上のウォーキングをしていた」では23.3%、「30分以上のジョギングをしていた」では27.6%と、若い頃に運動習慣がある人のほうが中高年になっても運動を続けていることが示されました。思い立ったが吉日。いつでも始められると思わず、さっそく今日から始めてみましょう!
運動が習慣となるまで頑張ることができると、様々なご褒美が待っています。上記の研究でも、精神的にも肉体的にもメリットがあることが示されました。精神面では、自分の健康状態に自信を持ち、ストレスに対する抵抗力があがります。中高年になっても体力の衰えを感じず、疲労を感じません。実際に体力測定をしても、血圧や脈拍数、握力、閉眼片足立ち、反応時間など様々な体力指標において、運動習慣のある人は水準が高く、また年齢による衰えが少ないことがわかりました。そして、体力の保持は日常生活や仕事のうえでも、転倒など怪我の防止、パフォーマンスの上昇、といった更なるメリットをもたらします。
運動やスポーツというと「体育」や「競技」を思い浮かべる方も多いと思います。そんなあなた、スポーツの語源をご存知ですか?スポーツの語源はラテン語の「deportare」だと言われています。意味は「日常の仕事や勉強から離れて没頭したり楽しむこと」、つまりはレクリエーションなのです。気負う必要はありません。家族や友人と郊外の公園やショッピングモールに出かけましょう。自動車で行っても構いません。行った先では車を降りて歩くことになりますから。歩くことに慣れたら家の周りを散歩しましょう。外の空気を吸い、町の景色を見ることに新鮮味を感じると思います。少しずつ、身体を動かすことや汗をかくことが不快ではなくなります。
ここまで来れば、あとはあなたの自由です。散歩を継続するも良し、自転車に乗ってみるも良し、ハイキングなどのイベントに参加するも良し。楽しいと思えることにチャレンジしてみてください。一つの種目に打ち込むも、いろいろな運動を少しずつ楽しむのもいいでしょう。
最後に、エドワード・スタンレー博士が1873年にリバプール大学で講演した時の言葉を紹介したいと思います。
肝に銘じておきたい言葉ですね。さぁ、運動を始めて健康で豊かな人生を!
「健康さんぽ74号」
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