一般財団法人君津健康センター一般財団法人君津健康センター

健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
こころとからだが元気になるコラムを発信していきます。
みなさまの健康生活にぜひお役立てください。

風疹と麻疹の感染拡大が止まらない件について

医師 小倉 康平

風疹と麻疹、2つの感染症の流行が止まりません。国立感染症研究所の発表によると、2019年に入って報告された全国の風疹患者数は1624人(5月29日現在)に上り、2018年7月下旬頃から関東を中心に始まった流行のペースは衰えることを知りません。

風疹

風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる急性の感染症で、ウイルスに感染してから2~3週間の潜伏期間を経て、発熱や咳、くしゃみ、耳の裏や首の後ろのリンパ節が腫れるといった風邪のような症状に発疹を伴うのが典型的です。風疹では、顔や首から発症して体幹に急速に広がる淡い色の皮疹で、皮疹同士が癒合せず、治癒後に色素沈着を残さないのが典型です。しかし、これは子供の風疹に見られる特徴であり、成人の場合は濃い紫色の皮疹(紫斑)や皮疹同士が癒合するなど、非典型的な皮疹が見られる場合もあり、麻疹など他の疾患との鑑別が困難な場合もあります。

風疹ウイルスは咳やくしゃみなどの飛沫を介して感染し、風疹への免疫がない集団において一人の患者から5~7人にうつす強い感染力を持ちます。しかも、その症状は不顕性感染(症状を伴わない)から、重篤な合併症の併発まで幅広く、症状が軽いために気付かないうちに周囲にうつしてしまう危険性があります。また、成人で風疹を発症した場合は、高熱や発疹が長く続く、関節痛を伴う、肺炎や血小板減少性紫斑病を合併するなど、小児よりも重症化し、入院が必要となることもあります。

そして、風疹に対する免疫が不十分な妊娠20週までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんに先天性風疹症候群(CRS)を引き起こす可能性が高くなるという問題があります。CRSの3大症状は先天性心疾患、難聴、白内障です。このうち、先天性心疾患と白内障は妊娠初期の3ヶ月の間に母親が風疹に感染した場合に起こりますが、難聴は初期の3ヶ月のみならず、次の3ヶ月の感染でも出現し、しかも高度な難聴である場合が多いです。また3大症状以外にも、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたる障害を伴うことがあります。なお、母親に風疹による発疹が生じた場合、胎児まで感染が及ぶのが約1/3であり、またその感染胎児の約1/3がCRSを引き起こします。

CRSそれ自体には治療法はなく、各症状に応じた対症療法が行なわれます。心疾患は軽度であれば自然治癒することもありますが、成長して手術が可能になった時点で手術を行います。白内障についても手術が可能になった時点で、濁った部分を摘出し、必要に応じて人工水晶体を使用するなどして視力の回復を目指しますが、遠近調節に困難が伴います。難聴については人工内耳が開発され、乳幼児にも応用されつつありますが、これまでは聴覚障害児教育が行われてきました。

よって、CRSに関しては、それを予防することが重要です。妊娠可能年齢の女性で風疹抗体がない場合には、予め積極的にワクチンで免疫を獲得しておくことが望まれます。なお、風疹ワクチンは「生ワクチン」という種類で、毒性を弱めてありますが生きたウイルスを接種します。そのため、ウイルスが増殖して胎児に影響を与える可能性が否定できないため、妊娠が判明してから予防接種を受けることはできません。しかし、妊娠中にワクチンを接種してしまった場合でも、過去に蓄積されたデータによれば障害児の出生は認められていませんので、妊娠を中断する理由にはなりません。また、予防接種を受けられなかった、あるいは接種しても十分に免疫を得られなかった妊婦は、風疹が発生している地域では可能な限り外出を控え、やむを得ず外出する場合も人混みを避けるなど風疹予防に努めてください。

現在の風疹の感染拡大を防止するためには、社会全体における風疹に対する抗体を持たない人を減らさなくてはなりません。また、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され、様々な国から多くの外国人が訪日することが見込まれており、大会開催地や有名観光地などに人が密集することで風疹を含めた感染症が蔓延するおそれがあります。そのため厚生労働省は2019年~2022年3月の約3年間にかけて、これまで風疹の定期接種を受ける機会がなかった1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性(5月29日現在40歳1ヶ月~57歳1ヶ月)を対象に、まず風疹の抗体検査を行ったうえで、抗体価が低い人を対象に無料で定期接種が受けられるようにする追加的対策をスタートしました。該当する方は積極的に予防接種を受けてください。なお、抗体検査や予防接種のクーポン券が各自治体から段階的に送付されています。

麻疹

一方、麻疹(はしか)の感染報告も急増しています。2019年に入って報告された全国の麻疹患者数は566人(5月29日現在)で、年間で462人が感染した2014年を大幅に上回るペースで流行が拡大しています。

麻疹は麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症です。麻疹ウイルスに感染すると、約10日の潜伏期間を経て、発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状(カタル症状)が出ます。それが2~3日続いた後、いったん熱が下がりますが、口の中(頬の内側)にコプリック斑と呼ばれる周囲の赤い灰白色の斑点が出現し、翌日に39℃台の高熱と発疹が出現します。麻疹で見られる皮疹は顔や耳の後ろから出現し、体幹へと徐々に拡がります。赤みが強くお互いが癒合します。8日目ごろより解熱し、発疹も顔や耳の後ろから体幹にかけてかさぶたとなって消えていきますが、褐色の色素沈着を残すのが特徴です。

麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、飛沫感染、接触感染だけでなく、空気感染するため、同じ部屋だけでなく同じフロアにいても感染するおそれがあります。そして、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症します。肺炎、中耳炎を合併しやすく、患者の1000人に1人が脳炎を発症し、死亡することもあります。また、頻度は10万人に1人と高くありませんが、麻疹ウイルスに感染した後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもあります。

特に成人が麻疹を発症した場合は種々の合併症を併発して重症化しやすいです。なお、幼少時に1回のみワクチン接種を受けているなど、免疫が不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合、潜伏期間が長くなる、高熱が出ない、発疹が全身に拡がらないなど、非典型的で軽症な麻疹(修飾麻疹)を発症することがあり、麻疹と気付かずに周囲の人に感染させてしまうことがあるため、公衆衛生上の課題となっています。

麻疹も風疹と同様に特別な治療方法はありません。そのため、発症した場合には、発熱や脱水の対症療法や、中耳炎・肺炎への抗菌薬治療などが行なわれます。

麻疹ウイルスは空気感染するため、手洗いやマスクといった方法では予防することができません。よって、麻疹の予防接種が最も有効な予防法となります。このため予防接種法にもとづき、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)として各自治体が予防接種を実施しています。

麻疹の定期接種は、1977(昭和52)年以前は任意でしたので、これ以前に生まれた方はワクチン接種を受けていません。しかし、この時代は自然に麻疹にかかる機会が多く、一度麻疹を発症していると、免疫は一生持続する(生涯免疫)と言われています。

しかし、1978(昭和53)年から2005(平成17)年は定期接種が一回だったため、この時代に生まれた方は十分に免疫がついていない可能性があります。2007・2008(平成19・20)年に10代・20代の人を中心に麻疹の大流行がありましたが、その多くは麻疹の予防接種を受けていなかった、または一度の接種で免疫が不十分だった方が多かったと考えられています。その翌年から5年間、1990(平成2)年~1999(平成11)年生まれの人には追加接種の機会が設けられましたので、その時に2回目を受けているかもしれません。2006(平成18)年以降は1歳と5~6歳の2回接種となりましたので、生涯免疫を獲得できていると考えられます。

風疹同様外国人旅行者の急増に伴い、麻疹ウイルスに接触する機会も増えることが見込まれています。ワクチン接種を受けていれば心配する必要のない感染症ですので、この機会に母子手帳などでワクチンの接種状況を確認してください。接種を受けていない、受けたことが確実でない場合は、抗体検査やワクチン接種を受けることを検討してはいかがでしょうか。

「健康さんぽ83号」

※一般財団法人君津健康センターの許可なく転載することはご遠慮下さい。