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食物アレルギー

医師 小倉 康平

アレルギーとは

食物アレルギーはアレルギーの一種ですが、そもそもアレルギーとはどのようなものなのでしょうか。

私たちの体には、有害な細菌やウイルスなどの病原体から体を守る「免疫」という働きがあります。ところが、この免疫が本来無害なはずの食べ物や花粉などに過剰に反応してしまうことがあります。これを「アレルギー反応」と呼び、その対象が食べ物であれば食物アレルギーと呼ばれます。

アレルギーには食物アレルギーの他に、花粉症、金属アレルギーなどが知られています。最近これらが大きく取り上げられているためか、アレルギーは現代病と捉えられています。しかし歴史を振り返ってみると、紀元前から喘息やアレルギー症状は知られていました。古代ローマのルクレティウスは「食物は人によっては毒になる」と、食物アレルギーを示唆する記述を残しています。

食物アレルギーの場合、食べ物に含まれる特定の成分、主にタンパク質が異物(アレルゲン)と認識されて症状が引き起こされます。通常、食べ物は異物として認識しないようにする仕組みが働き、免疫反応をおこさずに栄養として吸収する事が出来るのですが、免疫反応を調整する仕組みに問題があったり、消化・吸収機能が未熟だと、食べ物を異物として認識してしまうのです。

食べ物は胃や腸を流れる中で分解され、栄養素として主に小腸から吸収されて、血液に乗って全身に運ばれますが、アレルゲンも同様に消化・吸収・運搬されるため、腸をはじめとして眼や鼻、のど、肺、皮膚などでさまざまな部位で症状が現われます。また、食べ物を食べた時だけでなく、触ったり、吸い込んだり、注射として体内に入ったりした時にも起こります。

アレルギーの原因(アレルゲン)となる食品

卵、乳、小麦は “3大アレルゲン” と呼ばれ、これらを原因食物とする患者さんの割合が多くなっています。この他にも食物アレルギーの原因となる食物には、そば、大豆やピーナッツなどの豆類、えび・かに・さばなどの魚介類、バナナやキウイフルーツなどの果物など幅広くあげられます。どの食物がアレルギーの原因になることが多いのかは年齢によって大きく異なり、乳幼児にとっての主な原因食物は3大アレルゲンである卵、乳、小麦ですが、学童期以降になると甲殻類や果物類、小麦などが主な原因食物となります。

子どもに多い食物アレルギー

食物アレルギーは子どもに多くみられるのが特徴で、6歳以下の乳幼児が患者数の80%近くを占め、1歳に満たない乳児では10~20人にひとりが発症しています。子どもに食物アレルギーが多いのは、成長段階で消化機能が未熟で、アレルゲンであるタンパク質を小さく分解(消化)することができないのがひとつの要因と考えられています。そのため、成長にともなって消化吸収機能が発達してくると、原因食物に対して耐性(食べてもアレルギー症状が出なくなること)がつく可能性が高いのです。卵・乳・小麦などは入学前に8割程度は反応を起こさなくなる「耐性化」がみられます。

しかし、中には大人になっても症状が続くものもあり、幼児期後半以降(成人も含む)に発症した食物アレルギーは治りにくいとされています。ピーナッツ・魚介類・果実・そば・種子類のアレルギーは、耐性化しにくいアレルゲン食品とされています。それぞれのアレルゲン食品、重症度により個別に経過の観察が必要です。また年齢と共に原因食物は変化していきます。

どんなタイプがあるの?

食物アレルギーは大きく4つのタイプに分類されます。

新生児・乳児消化管アレルギー
主に新生児のときに牛乳が原因でまれに発症するタイプです。嘔吐、血便、下痢などの消化器症状が主に起こりますが、2歳頃までにほとんどが治るとされています。

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
乳児期の食物アレルギーの症状として、もっとも多いのがこのタイプです。生後間もなく顔からはじまる湿疹が、治療によってもなかなか改善しない傾向があります。しかし、乳児期のなかなか治らない湿疹がすべて食物アレルギーに関係するわけではないので、その診断は医師の慎重な判断のもとにおこなわれなければなりません。卵・乳・小麦・大豆などが主な原因食物で発症しますが、多くは成長とともに自然と治っていきます。

即時型アレルギー
原因食物を食べた後、速やかに(多くは60分以内)症状があらわれます。じんましんなどの皮膚症状が約9割と多いですが、他に呼吸器や消化器などにも非常に多彩な症状(アナフィラキシー)があらわれ、中には血圧低下や意識を失うなどのショック状態に陥り命にかかわる場合もまれではありません。原因食物は年齢によって異なり、乳児では卵、乳、小麦が多く、学童期以降では甲殻類や果物類、小麦などが多くなります。

特殊型(次の2つがあります)
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
特定の食べ物を食べた後に運動をするとアナフィラキシーが起こる病態です。原因となる食物は小麦や、えび・かにが多いのですが、それらを食べても運動しなければ症状は起こらず、また、運動してもそれらを食べていなければ症状は出ません。小学生以上から高校生に多くみられます。

口腔アレルギー症候群
果物や野菜を食べた直後に、口の中がイガイガしたり腫れたりする症状が特徴的です。花粉症の ある大人に多く、特定の花粉と関連する果物や野菜に反応(交差反応)することで起こります。どのような果物や野菜でアレルギーが起こるかは、どの花粉にアレルギーがあるかによって異なります。

部位ごとのアレルギー症状の例

皮膚症状 かゆみ、じんましん、むくみ、赤くなる、湿疹
呼吸器症状 くしゃみ、鼻づまり、鼻水、せき、息が苦しい(呼吸困難)、ゼーゼー・ヒューヒュー(喘鳴)、犬が吠えるような甲高いせき、のどが締め付けられる感じ
粘膜症状 眼:充血、眼のまわりのかゆみ、涙目
口:口腔・唇・舌の違和感・はれ
消化器症状 下痢、吐き気、嘔吐、血便
循環器症状 脈が速い・触れにくい・乱れる、手足が冷たい、唇や爪が青白い(チアノーゼ)、血圧低下
神経症状 元気がない、ぐったり、意識もうろう、尿や便をもらす
全身症状 アナフィラキシー


患者さんによってアレルゲンは異なります。自分のアレルゲンを知ることが対策のスタートです。食事の最中や食後に、くりかえし「おかしいな?」と感じたら、まずは医師に相談し、原因食物をきちんと診断してもらいましょう。言葉を十分に話せない乳幼児では、皮膚症状に注目してください。離乳食をはじめた頃から、頬、肘の裏、膝の裏などに、じくじくとした湿疹が出て治らない、皮膚がごわごわしてきた、といった症状があった場合は小児科や皮膚科を受診させましょう。

病院では、患者さんの食習慣や食物アレルギーが出たときの状況、家族歴などについて詳しく問診をとります。いつ、何を、どのくらい食べて、どれくらい後に、どのような症状が出たかがポイントになります。「食物日誌」など記録をつけておくと役立ちます。血液検査や皮膚テスト(プリックテスト)、食物除去試験、食物経口負荷試験といった検査を行う場合もあります。


アレルゲンがはっきりしたら、医師の指導のもと、原因食物を食べない「食物除去」を行います。ただし、栄養不足で健康や成長に影響が出ないよう、専門の医師としっかり相談し、除去は必要最小限にとどめることが大切です。特に小さいお子さんには注意が必要です。

食物除去を行ううえで、加工食品のアレルギー表示を確認する習慣を付けましょう。平成27年4月1日より「食品表示法」が施行され、アレルギー表示をはじめとした、消費者が食品を選択・購入する際に必要な情報が正確かつわかりやすく表示されています。アナフィラキシーを引き起こすリスクが高い「特定原材料」として、卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生の7品目は、極めて少量であっても、箱や袋、缶や瓶など容器包装された加工食品に入っていれば必ず原材料表示されます。

また、特定原材料に準ずるもの20品目については、「可能な限り表示をするよう努めること」として表示が奨励されています。(表示の義務はありません)

製品の表記欄に「代替表記」(例:乳→バター、チーズなど)と呼ばれる別の書き方がされているものも認められています。また、特定原材料名と代替表記を含んでいる原材料名の一部には「拡大表記」(乳→加糖れん乳、アイスミルクなど)としてその利用を認められている表記があります。

ところが、表示義務のある特定原材料7品目が含まれていても、表示されない場合があるので注意が必要です。 以下のような食品では表示されませんので十分に注意してください。

店頭で計り売りされる惣菜・パンなどその場で包装されるもの
注文して作るお弁当

加えて、運搬容器への表示や、食品中に含まれる特定原材料等の総タンパク量が数µg/ml濃度レベルまたは数µg/g含有レベルに満たない場合、知見が不足している香料などは表示が免除されています。

アドレナリン自己注射薬を携帯しましょう

食物アレルギーの患者さんには、ときに命を脅かすアナフィラキシーの症状が出ることもあります。もしもの時にあわてないよう、普段からしっかりと対策しましょう。

過去に強いアナフィラキシーの経験があったり、その危険があると思われたりする場合は、アドレナリンを自分で注射する自己注射薬(アナフィラキシー補助治療剤)を常に携帯しておくとよいでしょう。自己注射薬は、患者さんの状況に応じて、医師が必要だと判断した場合に処方されます。ただし、アドレナリン自己注射薬の処方の資格を持つ医師でなければ処方できませんので、受診する際はあらかじめ電話などで確認するようにしてください。

「健康さんぽ77号」

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