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予防接種とワクチン

医師 長尾 望

予防接種とワクチン、その目的

*ワクチンとは:微生物そのものないしは微生物由来の物質であり、体内に入ると免疫の反応を引き起こします。

*予防接種とは:個人がある感染症にかかることや、その感染症が社会全体で流行することを予防するために、ワクチンを体内に入れること。したがって、個人がその疾患にかからない、ないしは症状が軽減することと、個人間での感染症の伝播を阻止し社会全体で流行しないこと(集団免疫の獲得)を目的とします。

予防接種について

*定期予防接種とは:予防接種法や政令で対象疾患と接種を実施する年齢が決められており、接種対象者も接種を受ける努力をすることが義務付けられているものをいいます。

例)BCG、麻疹風疹混合ワクチン、ジフテリア・百日咳・破傷風の三種混合ワクチンなど

*任意予防接種とは:予防接種法で決められていない予防接種や、定期接種の年齢枠から外れて接種する場合をいいます。海外の疾患流行地に渡航する場合に接種するものを含みます。予防接種法による救済制度は適用されませんが、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による救済があります。

例)おたふくかぜ、A型肝炎、インフルエンザ、狂犬病などのワクチン

ワクチンの種類

*生ワクチン:組織培養により弱毒化した病原微生物(ウイルス、細菌など)を生きたまま接種するもの。注射生ワクチン接種の後に次の注射生ワクチンの接種を受ける場合は、4週間以上あけなければなりません。

例)麻疹、風疹、おたふくかぜなどのワクチン

*不活化ワクチン:大量に培養されたウイルスや細菌などのウイルス粒子や細菌の感染性菌体などを集めてから、加熱またはホルマリンなどで殺したもの。次のワクチン接種までは1週間以上あける必要があります。

例)インフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎などのワクチン

*トキソイド:細菌が産生する毒素(トキシン)を抽出し、ヒトに抗体を作らせる能力は残したままホルマリンなどで毒性をなくしたもの。次のワクチン接種までは1週間以上あける必要があります。

例)ジフテリア、破傷風などのワクチン

*mRNAワクチン:新型コロナウイルス感染症のワクチンのうちの一部はこのメカニズムとなっています。疾患を起こすウイルスの遺伝情報をもとに、ウイルスの表面にあるたんぱく質を作らせるmRNA=“設計図”をワクチンとして接種すると、接種された人の細胞に入り、人の細胞がその表面のたんぱく質を作成します(つまり我々のからだ自体がウイルス表面のたんぱく質を作成する“工場”として機能します)。
そして、そのウイルスたんぱく質に対して我々のからだが対抗する抗体を作成することで、結果的にその疾患に対応する抗体ができる=免疫が機能するという仕組みになっています。また、mRNAワクチンにはウイルス粒子そのものではないため、mRNAワクチン自体が、予防対象の疾患を引き起こすことはありません。さらに、mRNAワクチン接種後の抗原の発現は一時的なものとなっています(比較的短期間で分解されるため)。

ワクチンと副反応

生ワクチン、不活化ワクチンなど、ワクチンはもともと我々のからだの中でその微生物が増殖したり、微生物に対する抗原抗体反応を引き起こさせることで免疫をつけることを狙いとしています。そのため、微生物が増殖することによる発熱あるいは発疹などの症状や、痛み・腫れなどの局所反応は最小限であるほうが良いものの、発生頻度をゼロにすることは原理的に不可能です。
それらの反応を副反応といい、病原微生物に由来する反応と、培養液・安定剤・抗生物質などに対するアレルギー反応などがあります。アレルギー反応の中には、通常接種後30以内に生じる強度のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックがあるため、接種後30分は医療機関内にとどまって体調の変化を観察する必要があります。
下記のような症状が現れた場合は、大至急接種した医療機関で治療を受けましょう。

<アナフィラキシーショックの症状>

*皮膚:かゆみ、むくみ、じんましん 等
*呼吸器系:咳、喘鳴(喘息のようにヒューヒューする呼吸)、呼吸困難 等
*心臓血管系:脈拍が弱くなる、脈が速い、低血圧、不整脈、心停止 等
*神経系:不安、意識障害 等
*その他:目の充血、涙目、吐き気、嘔吐、腹痛、失禁 等

参考:「予防接種の手びき 第12版」近代出版 木村三生夫ら編

 

「健康さんぽ90号」

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