一般財団法人君津健康センター一般財団法人君津健康センター

健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
こころとからだが元気になるコラムを発信していきます。
みなさまの健康生活にぜひお役立てください。

四十肩・五十肩
について

医師 桝元 武

四十肩・五十肩は、正式には「肩関節周囲炎」という疾患群のことで、肩関節の周囲に起こる炎症のことを指します。

人間の肩関節はとても広い範囲を動かせるようになっていますが、その分だけ構造は非常に複雑です。肩関節は肩甲骨と上腕骨が接続していて、周囲には多くの筋肉や腱(筋肉が骨に付着する部分)、関節をスムーズに動かすための一種の潤滑液の入った滑液包などがあります。そのため、炎症が起こりやすい部分が非常に多いといえます。四十肩・五十肩は中高年に多く起こりますが、原因は明らかにされていません。外傷や特別な病気がないのに発症します。

■ 四十肩・五十肩のおもな特徴

50歳代に起こりやすい

まさに病名の由来となるわけですが、だいたい40歳代後半から始まって50歳代にピークを迎え、60歳代までは見られます。不思議なことに20歳代、30歳代には起こりません。70歳代、80歳代にもまずまれです。発症する割合は、全人口のうち2~5%といわれます。

肩から腕にかけての痛み

痛みの範囲は肩関節のみにとどまらず、肩から腕にかけて痛むのが特徴です。首から肩にかけての痛みを訴えてくる場合、これはほとんどが首に由来する疾患です。左右の肩に同時に発症することは少なく、ほとんどはどちらか一方の肩に起こります。ただし、左右が時期をずらして発症するケースもあります。

「腕」の動きが制限される

四十肩・五十肩になると、腕を前や横から真上に上げる、外や内にひねる、後ろにまわすなど、肩関節の可動域(動かせる範囲)がかなり制限されます。痛みをこらえればひと通り動かせる場合は、五十肩とはいいません。痛みだけだと紛らわしい病気は多々ありますから、運動制限があるかないかが見分ける大事なポイントだと言っても良いでしょう。

自然に治る

四十肩・五十肩の多くは、おおむね半年から1年、個人差はあるものの自然に治っていきます。ただし、「放っておけば必ず治る」と解釈してはいけません。確かに自然に痛みはとれますが、長い間放置しておくと治ったあとで運動障害が残る可能性があるので、適切な治療が必要です。

注意

整形外科では、肩関節のどの部分にどんな炎症が起こっているかを検査・診断し、痛みには消炎鎮痛剤などを処方します。早く回復するために、肩関節の可動域を少しずつ広げる運動療法の指導なども行います。医師に相談し、治療を受けることは、完治に向けての近道です。

どんな人がなりやすいか・・・

40歳代以降の人に起こりやすいという点以外、男女差や運動習慣などによる発症頻度の違いはなく、利き腕に起こりやすいということもありません。ただし、長い期間、野球などのスポーツや仕事によって肩関節(腱など)を酷使し、過去に関節を傷めたことのある人は、いったん、四十肩・五十肩にかかると治りにくい傾向があります。

どんな症状が出るか・・・

腕をねじったり上げ下げすると肩に痛みが起こり、思うように動かせなくなり、シャツを着る、髪を結う、帯を結ぶなどの動作がしづらくなります。とくに関節内や滑液包に石灰が沈着している場合、激しい痛みが起こります。また、肩の背中側を手で押してもあまり痛くありませんが、肩の胸側を押すと強い痛みを感じるのが特徴です。

【四十肩・五十肩に似た症状を示す疾患】

肩峰下滑液包炎
(けんぽうかかつえきほうえん)
肩峰下滑液包が炎症を起こす。五十肩の前段階とも考えられる。原則として腕がひと通りは動くので、運動制限がある五十肩とは区別される。
腱板炎 腱板が炎症を起こす。肩峰下滑液包炎と同様、痛みはあるが腕はひと通りに動く。これも五十肩の前段階の1つだと考えられる。
腱板断裂 腱板は最も老化の早い組織の1つ。重いものを持ち上げる、上にあるものを無理にとるなどの動作で突然切れることがある。棘上(きょくじょう)筋の腱板断裂が多くみられ、50歳代から増え60歳代がピーク。激しい痛みと突然腕が上がらなくなるのは五十肩と同じ。
肩峰下インピンジメント症候群 インピンジメントとは医学英語で「ぶつかること」「衝突」という意味。腕を上げるときに腱板が肩峰にぶつかることから起こる様々な症状の総称。一例として、年をとると、棘上筋の上にある肩峰の突起部分に「骨棘(こっきょく)」というカルシウムのトゲのようなものができ、腕を上げると、腱板がこの骨棘にぶつかり、炎症や腱板が擦り切れて断裂を起こしやすくなる。
上腕二頭筋長頭腱炎 上腕二頭筋の腱の1つである長頭腱に炎症が起こる。ここは炎症を起こしやすい部位で、ひところはこれが五十肩のすべての原因と言われたこともある。運動制限は起こらないので、今は五十肩の始まりの1つの様相であると考えられている。
石灰化腱炎 腱板に石灰化(血液中のカルシウムが結晶となって沈着すること)が起きて、突然、激烈な痛みが生じる。腱が破れて周囲にもれ出たカルシウムの結晶が急性の炎症を起こすと考えられている。年をとるとともに起きやすくなる。あまりの痛さのために腕を動かすことができない。五十肩とよく間違えられるが、X線写真で石灰化が起きているかどうかが一目で鑑別できる。

※これらは重複して起きることもあります。いずれにしてもきちんと診断を受けることが大切です。

■ 四十肩・五十肩のおもな治療

四十肩・五十肩は激しい痛みを伴うため、ほとんどの場合、薬で炎症と痛みを抑えることから始まり、次に、肩関節を動かす体操を続けるという2つの柱で行われます。通院は痛みがひどいうちは週1~2回、その後は1ヶ月に1回ぐらいになるでしょう。

痛みを抑える消炎鎮痛薬

炎症を抑えて痛みを和らげる「非ステロイド性消炎鎮痛薬」や「ステロイド薬(副腎皮質ステロイドホルモン)」を用います。おもに痛みの強さや患者の全身状態などを把握したうえで適切な薬剤を選択します。

消炎鎮痛薬で最も多い副作用は吐き気や胃痛などの胃腸障害です。四十肩・五十肩では短期の使用がほとんどのため、胃の粘膜を保護するための薬を同時に処方することで副作用に対処しています。ただ、副作用についてはあまり神経質にならず、夜も眠れないほど痛みがひどい時など、ずっと

楽に寝られるわけですから、賢く薬を使ってください。

<形状・種類など>

一番痛みの激しいときは坐薬、そうでもないときは内服薬や外用薬を処方します。

坐薬: 投与時間が食事と関係しないため、就寝前や起床後すぐにも使用できるのが特徴です。内服薬より胃腸障害の発生頻度は少ないですが、血液中に薬剤が吸収されて消化管の粘膜の中に入っていくため、胃腸障害の生じやすい患者には他のタイプの薬を併用することで副作用を予防します。

内服薬:空腹時に内服すると胃腸障害が多いため、1日3回食後に内服します。

外用薬:パップ剤(湿布薬)やプラスター剤(粘着テープ薬)などがあり、プラスター剤のほうが薄くてはがれにくいので、患者に好まれるようです。肩にうまく貼れない人には軟膏や液剤を出すこともあります。

注射: 夜も眠れない、日常生活が本当につらいという時期に、局所麻酔薬にステロイド薬を少し混ぜた「混合注射」を患部に打つと非常に楽になります。ただし、ステロイドは使いすぎると、肩関節の組織の性質を弱めて腱が切れやすくなるなどの副作用があるため、決められた用法・用量の指示に従います。注射後しばらく痛みはとれますが、2~3時間たつと少し痛みがぶり返します。中には効果の無い人もいます。

神経ブロック療法:痛みを伝える神経に局所麻酔薬を注射し、その神経が支配する領域をマヒさせて痛みをブロックする方法です。痛みがマヒしている間に腕を動かします。個人差はありますが、効き目は1時間30分から2時間くらい。うそのように痛みが取れます。もちろん、麻酔が切れると痛みはぶり返します。入院の必要はないので、しばらく休憩したあと、その日に帰宅できます。

関節鏡視下受動術:内視鏡(この場合は関節鏡)を使って、関節の中の癒着を剥がし、関節の動きをよくする手術を試みるのも1つの選択肢です。全身麻酔をかけたうえで、医師は関節鏡によって映し出された肩の内部をテレビモニターで確認しながら手術を行います。

肩の動きを回復させる体繰

四十肩・五十肩では炎症がおさまる過程で癒着(繊維化)が起こり、腕が十分に動かせなくなります。できるだけ早いうちから肩を動かせば、癒着しようとする力を妨げ、癒着を剥がし、運動制限を軽く済ませることができます。運動制限が治まるまで半年~1年間、辛抱強く体操を続けましょう。また、治ってからも体繰を続けていると、もう片方の肩の予防にもなります。医療機関で指導を受けることもできますから、相談するのもよいでしょう。

<体操のポイント>

肩を温めてください。肩の血流が不十分なまま始めると、筋肉や腱を傷めてしまい、逆効果になりかねません。入浴後や市販のホットパックやカイロで10~15分間温めてもよいでしょう。また、痛みをまったく感じない運動ではあまり効果は望めません。だからといって無理をすると、腱に弾力がなくなっているために断裂したりするので、「少し痛みを感じるくらい」でとどめ、同じ運動を回数繰り返して行います。痛みがやわらいでいるときに行いましょう。

四十肩・五十肩の予防

よく作業現場などで仕事前にラジオ体操をしていますが、これはまさに四十肩・五十肩予防といえます。一般的に、肉体を酷使している職業の人に多く発症しそうですが、逆に教職者や事務職などに多い傾向があります。例えば、建築現場では腕を高く上げる作業が多いので発症する可能性が高そうですが、実際になる人の数はデスクワーカーより少ないのです。やはり毎日ラジオ体操をするのがよい結果になっているとも考えられます。

肩関節は年齢とともに可動域が狭くなります。コンスタントに適度に使っていると、長く正常に機能するのではないかと考えられます。普段から適度な運動を習慣にし、肩関節を無理をしない範囲で動かすように心がけてください。

▶▶▶ 「前兆を見逃さない」 「早めに受診」

四十肩・五十肩は突然起こるのでなく、肩に違和感やしびれ感があるなどの前兆があります。これを見逃さず、起こったら肩関節を適度に動かしたり温めることで、症状の進行を抑えることができます。また、異常を感じたら早めに整形外科を受診し、正確な診断のもとで適切な治療を開始することが最も賢明な選択肢です。以上がご参考になれば幸です。

「健康さんぽ60号」

※一般財団法人君津健康センターの許可なく転載することはご遠慮下さい。