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健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
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学問の秋

医師 五阿弥 雅俊

 

健康さんぽをご覧のみなさん、こんにちは。本年度の4月より君津健康センターにて健康診断・産業医をしております五阿弥と申します。以前にもこちらで産業医としての勉強をさせていただいておりましたが、今年久しぶりに君津に戻ってまいりました。

一時は全国的にマスクや消毒液も十分に手に入らないほどの状況となり、健康診断や産業医としての活動が中止を余儀なくされていた頃もありましたが、今年になって君津に戻った頃には、入館する際に健康状態のチェックや検温をしなければならなくなったりといった変化はあるものの、いざ懐かしい建物に入ると3年前と変わっていなくて安心しました。

昨年から今年にかけては外に出かける機会が減り家で過ごす時間が増えたため、以前からやろうとしていたオンライン英会話を始めることにしました。これまでにも何度か英会話の勉強をしてみたりリスニングCDなどでできるだけ英語に触れるようにしていたのですが、実際に英語を母国語とする方と話すという体験は初めてでした。

しかし、いざレッスンが始まり自分が言いたいことを実際に言葉にしようとすると、思ったようには話すことができず、たどたどしくなってしまったりと、英語で話すのはなかなか難しいと感じました。普段使うことのない言語を使って話すことは、利き手ではない方の手で箸や鉛筆を使っているような、もどかしい感覚でした。

こうして英語を勉強している中で、私たちが子供の頃に日本語を学んだ際にはどうやって、どのような過程で言葉を身に付けていったかということに興味を持ちました。そのことについて考えていると、先日書店にて偶然「小さい言語学者の冒険 子供に学ぶことばの秘密」(岩波科学ライブラリー 広瀬 友紀 著)という、子供が言葉を身に付けて話せるようになる過程について考察された本を見かけました。この本を読んだり子供の頃から今に至るまでの実体験を振り返って考えると、単語や文法といった知識を暗記したりといった勉強ではなく、日常的な体験として日々言葉に触れることが重要だったのだと実感しました。

体験することが重要であるということは、言葉を身に付けるということに加えて、生きる上で身に付けるべき力を学ぶ上でも同様かもしれません。最近ではオンライン授業なども導入され、テストのための勉強はカバーできるのかもしれません。しかし、学校で対面で人と関わったり、行事などに参加する機会が減ったことによる、生活する上でのコミュニケーションに必要な生きた言葉を身に付けるという体験を補うことはできないでしょう。学校生活や行事、部活やバイトといった経験や体験を通して身に付けたことは、現在仕事をしたり色々な人と関わったりする上での土台となっていると感じますが、今の子供たちはその機会を多かれ少なかれ失っているのかもしれません。

また英会話をしていて、超えるべき壁はたくさんの表現や例文を覚えたりすること、ではなく、「間違えること・失敗するのが恥ずかしいと思うこと」だと気づきました。子供の頃のように、実際に相手を前にしても間違いを気にせずに積極的にトライすることが何より大事だと思いました。

芸術の秋、スポーツの秋、という言葉があるように、秋という季節は様々なことを体験する良い機会かと思いますが、これからも年齢や環境にとらわれず、自分の殻を破ってどんどん新しいことにも挑戦していきたいと思います。

 

「健康さんぽ92号」

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