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血圧の話

医師 長尾 望

皆さん、健診の検査項目というとどんな検査を思い浮かべられますでしょうか?胸部レントゲン写真?尿検査?採血?・・・それらのどれもが大切な項目ではありますが、そろそろ秋風が吹いてくるこの頃、秋の入り口である今回は血圧のお話をさせて頂きます。何故なら気温の下がる冬場になると、血圧が上昇したり、ヒートショックによる排泄中や入浴中の事故などの例が見られやすくなるからです。

血圧とは

さて血圧とはいったい何でしょうか?血圧とは血液を全身のすべての血管に送り出す圧力=いわば血の水圧、ということになります。そしてポンプの役割を果たしている心臓から血液を送り出すちから(心拍出量)と、送り出された血液が流れていく先のホースである血管の状態(血管の太さや硬さ、末梢血管抵抗)によって決まってくる数値です。実際の身体においては心拍出量と末梢血管抵抗だけでなく、食事・運動・精神的ストレス・脱水の有無など様々な要因が複雑なメカニズムで関わってきます。

上の血圧? 下の血圧?

【収縮期血圧(上の血圧)】

【拡張期血圧(下の血圧)】

血圧には収縮期血圧(いわゆる「上の血圧」)と拡張期血圧(「下の血圧」)がありますが、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上のどちらかを満たす場合を高血圧と定義しています。高血圧はさらにⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度に分類されます(下の表を参照)。

初期の頃は摂取塩分量や食事のバランスの見直しでの対応から始めますが、頭痛などの症状を伴う場合や、Ⅱ度~Ⅲ度の高血圧である場合は早めの受診を心がけましょう。

血圧はなぜ変動するのか

では血圧の変動をもたらす要素について考えたいと思います。上記に記載したように、食事(塩分量)・睡眠の状態・直前の運動・運動習慣の有無・精神的ストレス・脱水・入浴・測定中の姿勢・測定部位などさまざまな原因が関係し合っていることに注意が必要です。

血圧は1日のうちでも変動が見られます。朝起床後に一時的にグッと高くなり、ある程度の高さで日中を過ごし、寝ている間はやや下がる、という傾向にあります。また季節的には全身の末梢血管が収縮しやすい気温が低い時期=冬場に血圧上昇しやすいと言えます。血管の収縮/拡張による変化を来す原因になるものとしては、喫煙/飲酒も重要です。とりわけ煙草に含まれるニコチンは交感神経を刺激し血圧を上げ、不完全燃焼により発生する一酸化炭素を吸入すると酸素不足を補おうとして心臓の拍出量が上がることも血圧を上昇させる方向に作用します。さらに喫煙は長期的に血管を傷害するため動脈硬化を促進することになり、動脈硬化が進むほどに血圧は上がります。

また、測定する場面や測定機器による測定値の違いもあり得ます。

仮面高血圧:病院などでの測定結果より自宅での方が数値が高いことを言います。そうなる理由は、起床直後の血圧はやや上がっているのに対し、受診時は朝に降圧薬を内服した効果が出ていて血圧が下がっている場合があるからです。

白衣高血圧:日頃よりも病院受診時に高くなる場合は、病院というシチュエーションや白衣を着ている医療スタッフを見て緊張している場合などに生じます。この場合、治療に重要なのは自宅での測定値となるため、普段の血圧をきちんと把握しておくことが大切です。

手首式血圧計と上腕式血圧計での数値の違い:どちらかが間違っている、というわけではなく部位による血管の硬さの差(個人差あり)により数値に違いが出ることがあります。また、手首式の場合、機器の高さは心臓と同じ高さにしている必要がありますが、それがずれていると高く出たり(手首が心臓より低い場合)、逆に低く出たり(手首が心臓より高い)することがあります。最近はウェアラブル端末(腕時計型など)でも測定できるようになっており、時間帯、曜日、仕事中と休息中、といった場面による血圧の変動を知ることも出来ます。いずれにしても、毎回同じ機器で同じ条件で測ったもので傾向をつかむことが重要です。

<正しい測定のポイント>

その他、測定値に差が出る要因としては、

血圧計の腕帯の位置がずれている:正しくは肘の内側のくぼみから1~2㎝上のところに腕帯の下の端が来るように装着するべきですが、ずれると動脈からの信号を捉えにくくなって数値が上昇します。

腕帯の巻き方がゆるい:腕帯からの圧力が血管にしっかりと到達しません。しっかり圧がかかるためには更に腕帯の圧力を上げねばならなくなるので数値が上昇します。

正しい姿勢でない場合:あぐらや正座ではお腹や足に圧がかかるため、血圧が高くなる傾向があります。また、椅子が高く血圧計のテーブルが低くて身をかがめているような場合などでは、腹圧がかかっていたりあるいは腕の位置が心臓より低くなるため数値は高く出る傾向があります。

  

したがって、日頃の血圧を正確に評価するためには、同じ機器で正しい姿勢で、一日のうち同じタイミング(起床後1時間以内でリラックスし(5分の安静後)、排便・排尿後、食事や喫煙の前、降圧薬内服の前、など)で継続的に測定値を記録していくことが重要となります。また、測定機器の寿命について機器メーカーの推奨は、「腕帯は1年ごとに交換」「機器本体も出来れば5年で交換」が目安となっているようです。ちなみに、君津健康センターでは定期的に機器の校正を行っており、正確な数値が出るように管理しています。

血圧上昇と動脈硬化

このように血圧を確認した結果、血圧が高値であることがなぜいけないのでしょうか。それは動脈硬化の促進につながったり、ポンプである心臓に負担がかかったりするからです。

動脈硬化が進むと、さらに血圧上昇するため悪循環にはまりますし、動脈硬化が著しく進んだ血管に圧がかかると破れる=出血する可能性もあります(脳出血、眼底出血、大動脈解離など)。また動脈硬化が進むと血管の中は狭くなり、詰まりやすくなります。つまり脳梗塞や心筋梗塞へとつながります。心臓の負荷が上がれば、心肥大や心不全となり呼吸苦・疲れやすさ・全身の浮腫、胸痛などが生じてきます。

 

高血圧が指摘されたら

健康診断などで高血圧が指摘されたら、まずは自宅で決まったタイミングでの血圧をきちんと把握することから始めましょう。その結果、血圧が高い傾向にあった場合は、測定値の記録を内科に持参して相談しましょう。血圧の治療時は、下記の生活習慣も見直しをしましょう。

<改善すべき生活習慣>

食塩量の目安:6g/日以下に塩分摂取量を減らしましょう。ちなみに、ラーメンのスープを全て飲み干すと、それだけで5~7g程度あるので要注意です。

食塩以外の栄養素:野菜・果物を取り、動物性の脂肪は控えめにしましょう。

適正体重の維持:太っている場合は減量しましょう。

BMI(体重【kg】÷身長【m】÷身長【m】)は22が標準体重です。

運動:心血管疾患のないひとは、1日30分以上のウォーキングなどをしましょう。たとえ1日10分しか出来ない場合も是非運動は継続しましょう。1日30分できなくても、継続的に運動することは十分意味があります。

節酒:アルコールは日本酒1合、ビール500ml、焼酎120ml(25度)、ウイスキー60ml、ワイン200mlが適量とされています。また、週2日は休肝日があると良いでしょう。女性はこの約半分に制限することが勧められています。

喫煙:喫煙すると血圧は短時間的には20mmHgくらい上がります。長期的にも動脈硬化を促進してしまうので、必ず禁煙しましょう。

以上、高血圧についてでしたが、皆さんもお心当たりのある数値や症状、生活習慣などはありませんでしたか?これから寒くなり血圧が上がりやすくなります。ぜひこれを機会に生活習慣の改善や治療に取り組んでみましょう!

 

「健康さんぽ92号」

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