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血管迷走神経反射を知っていますか

医師 小倉 あゆみ

健康診断の仕事をしていると、採血中や終了後に倒れてしまう方に遭遇することが少なくありません。他にも、職場や学校の朝礼、イベント会場、電車や飛行機の中など様々な場所で見られます。意識がある場合もない場合もありますが、完全に意識消失してパタンと倒れてしまうと頭や顔に怪我をしてしまうこともあり、周りの方が驚いてちょっとした騒ぎに なります。                                      

脳血管疾患や心疾患など、重篤な疾患で起こっていることもあるのですが、一番頻度が多いのは「血管迷走神経反射」です。これは、副交感神経(リラックスさせる自律神経で、普段は眠るときなどにはたらく)が急に過剰にはたらき、血圧が下がってしまうことで起こります。過度の緊張や痛み、長時間の立ちっぱなしや座りっぱなし、暑熱寒冷、消化不良など、心身にストレスがかかったときに起こりやすいのが特徴です。「貧血で倒れた」と一般に言われるのは、実はこの迷走神経反射によって血圧が下がった状態のことです。医学的に貧血は血中のヘモグロビン値が低下した状態で、この二つは異なります。                                   

実は筆者自身も血管迷走神経反射を何度か経験しています。筆者の場合は、夏場に出かけた時、あるいは出かけて帰り着いたときなどに多いと感じています。

血管迷走神経反射は、自律神経が過剰にはたらいているだけですので反射を起こしやすいのは体質に近く、病気として治療を行うことは稀です。初めの方に記載した通り、重篤な疾患で起こる意識消失発作と鑑別が難しいため、意識消失初回や、意識消失を繰り返す場合には循環器内科、脳神経外科等で精密検査を行っていただく必要があります。しかしながら、繰り返しやすい体質にお困りの方が多く、そのことについても健診で相談を受けます。一番大切なことは、意識消失による外傷を負わないことです。

予防策は、まず自分が血管迷走神経反射をおこしやすい状況や体調、前駆症状(発作の前に出る症状)に気が付くことから始まります。この状況だと、自分は倒れる可能性があると予想しながら過ごします。前駆症状には、頭痛、生あくび、胸腹部の不快感、腹痛、寒気、冷や汗、吐き気、視界のちらつき、眼前暗黒感、めまいなどが起こりやすいです。反射が来るかもと感じたらまず周囲に知らせ、ゆっくりと体位を低くします。頭を下げるのが大切で、可能な限り横になりましょう。足を高く上げられると尚よいです。トイレで症状が出やすい方は座ったままでも足台等で足の位置を高くし、頭を下げます。冷汗はふき取り、できれば温かい飲み物などをゆっくり飲んで体を温めましょう。呼吸が浅くならないようゆっくりと深呼吸を意識します。

採血で出やすい方は、スタッフに申し出て初めからベッドで採血を行うと、安心できますし、反射が出ても怪我をしません。反射の後は、普段通り過ごしても大丈夫ですが、仕事や外出では無理をせず過ごしましょう。食事は消化の良いものを選び、しっかり睡眠をとりましょう。お困りの皆さまが、少しでも反射と上手に付き合えることを願っています。

<参考文献> https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/71/6/71_530/_pdf    https://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/pdf/J021-1.pdf                      

「健康さんぽ104号」

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