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健康コラム君津健康センターの医師・スタッフから、
こころとからだが元気になるコラムを発信していきます。
みなさまの健康生活にぜひお役立てください。

からだを動かす健やかな1年を目指しましょう

新しい年を迎え、健康のためにからだにいいことを何か始めたいと思っている方も多いのではないでしょうか。新年の抱負をたずねると、運動をする、減量する、禁煙する、お酒を控えるなどがよくあげられるそうです。気持ちを新たに、1年間の目標をたてる絶好のチャンスです。今年はそのひとつに「からだを動かすこと」を考えてみませんか?

*からだを動かすことはプラスのイメージで

世界保健機関(WHO)が発表した「世界保健統計」によると、15歳以上の日本人の65.3%は運動不足だとされています。中国の運動不足率は30.6%、ドイツは30.4%、肥満大国のアメリカでも43.2%と日本より低い数字です。日本人は多忙のために運動時間をなかなか確保できないのかも知れません。

健康を支える3要素として、栄養、運動、休養があげられ、ひとつとして欠かすことはできません。運動不足だけでなく、日常生活の活動量が減少しても、生活習慣病は増加傾向になります。また、加齢に伴い、日常生活を快適に過ごすために必要な持久力・筋力・バランス・柔軟性の基盤も失ってしまいます。ところが健康のために運動を勧められても、時間がない、疲れる、苦手である、などといったマイナスイメージが先立ち、「からだを動かすのは難しい」という人が多いことも事実です。しかし、健康づくりのための運動は、短時間でも、きつくなくても、通勤や家事などの暮らしの中でこまめにからだを動かすことであり、いくつになっても、何歳からでも、プラスイメージを持ちながら、気軽に楽しく、無理なく続けていくことが大切です。

*健康づくりのための身体活動基準2013

厚生労働省では、2013年度から「健康日本21(第二次)」開始に合わせ、「健康づくりのための身体活動基準2013」と「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」を発表しました。

新指針では「プラス・テン(今より10分多くからだを動かしましょう)」を合言葉として、身体活動の増加を促すよう呼びかけています。また、ロコモティブシンドロームの予防も視野に入れられています。

*プラス・テン(+10)!今より10分多くからだを動かす

暮らしの中にはからだを動かすチャンスがたくさんあります。例えば、ちょっとそこまでなら歩く、テレビを見ながらストレッチや筋トレをする、エスカレーターではなく階段を使う、トイレは離れた方に行く、駐車場は遠い方にとめるなどです。

運動・スポーツに限らず、ちょっとした工夫で毎日の生活に「+10 (プラス・テン)」。今よりも1日10分多くからだを動かし、慣れてきたらスポーツなども楽しんでみましょう。ぜひ健康のための一歩を踏み出してください。

【健康づくりのための身体活動基準】

世代共通の方向性 身体活動 ▶ 今より少しでも増やす。例えば10分多く歩く。
運動 ▶ 運動習慣を持つようにする。30分以上の運動を週2日以上。

<18~64歳>
・歩行又はそれと同等以上の強度の“身体活動”を毎日約60分行う。
・息が弾み汗をかく程度の“運動”を毎週60分行う。

<65歳以上>
・どんな動きでも良いので(強度を問わず)、“身体活動”を毎日40分行う。
※血糖・血圧・脂質検査の異常、心臓や膝・腰に不安がある方は、まずは医療機関を受診し、医師に相談をしてください。

(出典)厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準2013より抜粋

*脱!座りっぱなしでNEAT(ニート)を増やす

私たちが食事で摂取したエネルギーは、主に以下のとおり、生命の維持、生活活動や運動・スポーツなどに消費されます。
① 基礎代謝量:体温の維持や心臓を動かすなど生きるために最低限必要なエネルギー
② 食事誘発性体熱産生:食事をした時に体内で消化や吸収をするのに消費されるエネルギー
③ 運動:歩行やスポーツなど計画的に実施する活動によって消費されるエネルギー
④ 非運動性活動熱産生(※NEAT:ニート):運動以外の立位姿勢やちょっとした移動など日常生活
での活動で消費されるエネルギー ※NEAT(Non Exercise Activity Thermogenesis)

NEAT(ニート)とは、運動ではない日常生活での活動で発生する熱量のことです。糖尿病に関する先進的な研究で知られる米国のメイヨークリニックの研究グループが論文を発表し知られるようになりました。この研究では、肥満気味の人はやせ気味の人よりも1日平均で約2.5時間座っている時間が長く、歩行時間が少ない傾向があることがわかりました。この「NEAT」の差だけで約350kcalに相当し、体重70㎏の人の場合、速歩で90分、ジョギングで60分の運動を実施した計算になります。(安静時のエネルギー消費を除く)

つまり、運動やスポーツとは言えないような日常生活の活動でも、からだをこまめに動かす習慣がある人はNEATの値が高く、太りにくい生活習慣になっていると考えらます。

また、別の研究では、1日のテレビ視聴時間が長いと心疾患リスクが高まり、視聴時間が1時間増えるごとに全死因による死亡リスクは11%増加、さらには、1日のテレビ視聴時間が2時間未満の人に比べ、4時間を超える人では、すべての死因による死亡のリスクが46%も高くなったという研究が、米国心臓学会発行の医学誌に発表されています。

まずは、「じっとしている時間」や「座っている時間」を減らすことから、はじめませんか?

*安全に運動を続けていくために

有酸素運動では、運動しながらおしゃべりができるくらいの強度、ニコニコペースで十分です。「ちょっときついかな?」と感じたら、その程度までにおさえておきましょう。

健康や減量のために、疲労困憊までたっぷりと運動する努力家の方もいると思います。しかし、運動後は疲れきってゴロゴロと休んでばかり・・・。これではせっかく運動したのに1日の総エネルギー消費はほとんど増えない、結果的に日常生活が安静状態となってしまいます。とくに、体力が低下した人では運動の疲労が大きく、必要以上に安静にして、これまでよりもからだを使わなくなる場合があるので要注意です。適度な運動の後は、水分を補給し、ストレッチでからだをほぐしたり、風呂掃除をしてからシャワーを浴びるなど、身体の動きを完全に止めてしまわないことがポイントです。

■ からだを動かす時間は少しずつ増やしていく。翌日に疲れを残さない。
■ 過労、睡眠不足など体調が悪い時は無理せずに休む。
■ 病気や痛みなどがある場合は、事前に医師と相談する。
■ 運動中や運動後に強い痛みや不調が発生する場合は、すぐに運動を中止する。
■ 準備運動・整理運動を必ず行い、運動前・運動中・運動後はこまめに水分を補給する。

体調が優れないときは別ですが、悪天候や思わぬ予定などがきっかけで、そのままズルズルと運動を休みがちになることがあります。室内で短時間でも可能なストレッチやスクワットの運動に切り替えたり、風呂掃除をしっかりやるなど、パターンをいくつか持っているとよいでしょう。

◎ 新しい国民病!? ロコモティブシンドローム(ロコモ)って何?

最近、メタボに続いてよく耳にするようになった「ロコモ」は、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略称で、加齢に伴って「骨、関節、筋肉」などの「運動器」の障害によって寝たきりなどにつながるリスクが高い状態のことをいいます。

メタボは、心臓や脳血管などの内臓の病気で「健康寿命」が短くなったり、「要介護状態」になったりするのに対し、ロコモは、骨、関節、筋肉といった運動器の障害が原因で起こります。

※ロコモティブシンドロームは日本整形外科学会が2007年に提唱。厚生労働省では、推定4700万人、そのうち2800万人は自覚症状がないといった調査結果が出ています。

◆ 「骨、関節、筋肉」の寿命を平均寿命に近づけよう

日本は世界的に誇るトップクラスの長寿国ですが、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間である「健康寿命」は、「平均寿命」よりも約10年短いと報告されています。平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康とはいえない期間」を意味します。ロコモを防いで、「骨、関節、筋肉」といった運動器の寿命が平均寿命に近づくように、今から運動習慣を身につけましょう。

ロコモであるかどうかを判断するために、日本整形外科学会が「7つのロコチェック」を発表しています。

日本整形外科学会の提唱する「7つのロコチェック」

    • □片足立ちで靴下がはけない
    • □階段昇降で手すりが必要
    • □15分くらい続けて歩けない
    • □掃除機や布団の上げ下ろしが困難
    • □家の中でつまづいたり、滑ったりする
    • □横断歩道を青信号の間に渡れない
    • □2kgの荷物(牛乳パック2個程度)を持ち歩くのが困難

◆ まだ関係ない?健康なうちからの適度な運動習慣

骨や筋肉の量のピークは20~30代です。骨や筋肉は適度な運動と適切な栄養を取ることで強く丈夫に維持されますが、骨がスカスカになる骨粗鬆症、膝の関節軟骨がすり減る変形性膝関節症、腰の神経が圧迫される腰部脊柱管狭窄症、筋の量・機能が低下するサルコペニアなど、加齢に伴う筋力やバランス能力の低下も加わり、転倒や骨折などによって介護が必要な高齢者の数は、年々増え続けているのが現状です。

運動習慣のない生活、過度なスポーツ、肥満は、関節や軟骨や椎間板などに大きな負担をかけ、腰痛や膝痛などの要因となります。また、やせすぎると身体を支える骨や筋肉がどんどん弱くなります。弱った運動器では、40代50代でも身体の衰えを感じやすくなり、60歳代以降、思うように動けなくなり、ますます動かなくなる可能性があります。健康なうちから日ごろの運動を心がけ、筋肉量や骨量を保つために、食事面でもおろそかにせず、たんぱく質やカルシウムだけでなく、ビタミンD、ビタミンKなども適切にとり、ロコモに負けないからだづくりを心がけましょう。

*一無・二少・三多(いちむ・にしょう・さんた)で健やかに

「一無」は無煙(禁煙)、「二少」は少食(腹八分目)・少酒(お酒はほどほど)、「三多」は多動(たくさんからだを動かし)・多休(しっかり休養を取り)・多接(多くの人・物事に接する)を意味しています。大きな目標を達成するために、「1週間では・・・」 「1ヶ月では・・・」というように小さな行動を積み重ねていきましょう。

皆さんにとって、この1年が健やかな年になることを願っております。

「健康さんぽ61号」

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